FOR DAVOS
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>>劇的な 城は赤く燃えているか 暗闇が動く 振り返った先にお前はいないんだろう わたしをさがしてください 麦畑へかえれ
>>寄り添う 影とよばれたひとがいた 引き金はわたしが引く 疾走するときは誰より傍に 叱ってくれると知っているので だから俺はまだ走れるのだろう
>>暗闇を這う 手紙は破られた 陽気な黄色と明るい血色 ヴァチカンから目を離すな 闇に紛れて呼吸する シチリアで死ね
>>芸術を愛する オペラに紛れた少年 仕事はAの音で始めよう 旋律を間違えた2ndヴァイオリン どうせ銃声は拍手に紛れちまうだろう 怒号のようなブラボーに、指揮者は優雅にお辞儀した
>>ひとりぼっち 色褪せた手紙からは懐かしい匂いがした せめてうんと良い時計をつけて さみしいとは言えない いつかまた会うときがあったら 気付けば故郷は此処にあった
>>季節 風は花を散らしてあなたを隠した 夏を28の大男にたとえた詩人がいた 星々は平野を駆けて 渡り鳥のようには行けないのです
>>疾走 わたしは人間を待っていた 遺された鍵穴 アイラインをひかれた猫 燃え尽きた預言が落ちてくる あの船は今どこに
>>きみ 生きている人を描ききるのは辛い 空っぽになった心は空腹に喘ぎ お前は風みたいに走り抜け わたしの呼び声すら届かない所に行ってしまった だから想うだろう、追うだろう、会いたいと泣くんだろう
>>あなたがたの帝国 これは私の戦争です 科学的根拠に基づく私情 涼しきモザイクは黙ってはいられなかった 金糸と銀糸で編まれた誓約書 もういない人々の簡素な報告
>春 うずつく帰り道 春が風が呼んでいるのだ 本日は長袖にしなさいよ 世界をゆるしてしまえる気がするの 日が影ったら、それから囁かれでもしたら
>夏 熱気で息もつけないくらい生きていた、日 ただじっと瞼の裏で汗をかいている 私は本当はあの時どうしても伝えたい言葉があって そして自転車のペダルは地球みたいに回り続けるのだ 日暮れがわくわくするなんて知らなかったの
>秋 広葉樹には絵の具で言付けしておいた 言葉を喉からもってゆかないで 飴一粒ではあなたは救えないの 虫が鳴いたと子どもが跳ねて わたしはとうとう一人になったと呟いた
>冬 底まで満たしたお空は遠くにいった 鳥も虫も、さようならさようなら リボンを抱いた子どもの頬をつつんで 内緒話はマフラーで結んであげよう そうしたら、明日の朝にはきっと手紙が届くから
>>憂鬱な手 神様に引き裂かれる両手の恋 薬指をゲームに賭けないで あたしはあなたの足になれない あいつとは手を切ってやれ ほんとはその小指がほしい
>>愛しい あなたがあんまりやさしいので すでに刺繍はネクタイに入っている 踏みにじられたかなしみは、 せめて自分で選んだと言わせてほしい それでもお前は必ず帰るだろう
>>まるで魚が泳ぐみたいに恋すりゃいい どうぞこぼれないでね 仕事をしてる時ほど無性に会いたくなる 手のかたちばかり見てしまうよ 上手に私の心に爪を立てる いっしょにケーキが食べたい
>>ひとたび くじらの腹まで探しに来てよ 指先を繋ぐ、紡ぐ ゆうるり眠る君の髪梳いたら わたしたちは走った確かに走れた それから、ひとたびあなたに
>>片思い 殴ってはキスを繰り返してもお前の心なんてやつは 衝動が凍り付く瞬間を知っているか 帰れないんでしょう、そうなんでしょう 爪がぼろぼろになっちゃったんです あなたが好きになったらわたしは嫌いになるだろう
>>きみは恋人 空は冴え冴えと晴れ渡り ピクニックのようねと君が笑ってそこにいて 髪留めを押さえる指の隙間からこぼれ おれは心底泣駄目な男なので 愛してると言ってやりゃあ良かったと思うんです
>>日々にうつつを 何だってこんなに悲しいの どうしても僕らは美しい国に住みたかった あなた違ったのね おはじきみたいに数えても良いんです あなたがくれたもの、わたしが返せたもの
>>先生 あなたは人に、出来ないことをやれと言う 誰にも成せない仕事をしろと言う あなたはとっても残酷で、私を地べたに這わせたけど 成せない仕事はやさしさだ 厳しい言葉はランタンだ あなたは人に、自分も出来ないことをしろと言う お前が歩けばいつかは道になるのだと私を叱咤し、指さして
>>ひびわれた かあさま死んで幾日か 白けきった僕のこころは それを器に酒は飲めれど 君はナンにも注げない 肴がなけりゃあ駄目ですからと 酔った君が貝を拾う それで蓋して身を食えば 美味しいお酒が飲めると無邪気に言う
>>素晴らしきイタリア 春はアルプスからやってくる 修道女も恋する モザイクの床を追って 造りかけのドゥオモ 標的はファサードにいる オリーブの花は白く小さくとも ローマを娼婦に喩えたとして トレヴィは今日も人だかり 港町は海から渡れ 城壁の靴音に怯んではならない
>>夢見るイタリア ジェラテリーアのおやじの話は長い 日曜、聖ピエトロ広場にて、娼婦と。 フレスコ画の後ろにはドアが隠されている 馬車に乗り合わせたひと カンツォーネはお嫌いですか? 殺し屋は修道服を纏う 旧葡萄畑街 広場のバールはまだ明かりがついていた 左手に鍵、右手には十字架 鐘楼を登るとフィレンツェは霧の中だった
>>半島にまつわる 顔を覆ったハンニバル カエサルは完全に沈黙した ペテロは丘の上からガリラヤを振り返る エラスムス先生も欠伸する オセローは黒いから愛されたのか? 十字架を捨てたチェーザレ ガリバルディが恋した王様
>>罪がななつ ノックはせず声はかけず足音も立てず(傲慢)
調子に乗ると分かって見せるカードはこの手に無いのだ(嫉妬)
デザートのあとまたディナーにもどる(暴食)
ポケットの金貨で買えるかなしみ(邪淫)
かつて祈りを捧げた両手は神様に持って行かれた(怠惰)
くりかえし見る夢には冒しがたい楽器の音が響き続けている(貪欲)
一晩中燃え続けたレバノンの杉(憤怒)
>>ヴェネツィアからのはがき<<
こちらに滞在して2ヶ月が経ちます。どうにも古本屋が多いと思っていたら、この水の都は出版業界の発祥の地だそうで、昨晩バールで出逢った旅行者に教えて貰った。ガイドブックを片手に入念な下調べを踏んで訪れる旅人たちの知識には頭が下がることが多く、自身の学の無さを改めて痛感させられ、ぐうたらな滞在者は毎日気まずい思いをしています。とにもかくにも、この街はいつも国内外からの田舎者が溢れている。それらの人々がゴンドラの上から幸せそうに挨拶するのに向かって、地元民のふりをして愛想良く手を振ってやるのが最近のささやかな楽しみになってきました。先日の電話で、ヴェネツィアのとっておきは何かと、確か尋ねられたね。月並みな答えではあるが、やはり夕暮れと答える他はない思う。わたしは毎日夕方になるとビール片手にいそいそと表に出て、ラグーナに沈みゆく太陽を見物します。どうしてこんなに世界は美しいんだろうと、飽きずに毎日見ています。街の足もとにたゆたう波と、黄色や白の壁の色した建物がベネツィアの青に染まるとき、道ばたの旅行者は時を忘れたように皆足を止めて、空を見上げる。それがまた、夜が始まるときめきとさみしさがごっちゃになった、いい色なのです。この美しい要塞に生活する人々が、そのことを誇りに思う気持ちをどうして分からずにいられるでしょう。世界中探したってここにしか無い青だと、両手を握って床屋の主人は威張りました。ところが不思議なことに、その時わたしはこれと同じ色を日本の秋に見たことがあると口に出さずにはいられなかったのです。ひとりで暮らすにつれて、望郷の色合いは益々濃くなり、懐かしい人たちを思い出します。瑠璃色に光るレースグラスを骨董品屋で見つけたので母さんに送ってやりたのですが、手持ちが足りないから、幾らか振り込んでくれると非常に有り難いです。走り書きで失礼、仕事が暇になったらいらっしゃい。良いとこです。また書く。
(活用方法は抜き出しでも全文引用でもご自由に)
>>子午線からモーニングコール カイロから来た男 地図から消えたクラクフ ジャカルタの市場もまだ明けぬ ロンドン地下鉄を走りきれ! ルワンダの瞳 砂漠の向こうがサマルカンド バレンシアの少女 モヘンジョダロがただの遺跡? ハバナの夜 明日の朝東京へ帰ります
>>寝物語にならない童話達 あるところに、海を知らない鯨がおりました。 目玉を奪われた王女 大好物が悲鳴の木こり 王様はたいくつ 森に消えた二人の少年 屠殺ごっこに興じる子どもら 話の終わりは誰も知りません。
>>クラッシックヒーローズ! 有機的校内放送 なまはげよりこわいもの 缶蹴りする者この子にとまれ 素晴らしきモラトリアム男 アイスが溶けたらばいばいね
>>その色に題名はない フィンランドの白夜 修道院の門を叩いたが母は拒んだ 欲しいものが拾える森があるそうな インドの嫁さん 紅海は満ちてあふれた 彼等は今にも死んでしまいそうな顔つきでした 今お前の声を受けとめてくれている受話器を思う 赤道を裸足でダンスする少女たち 鯨のひげのアクセサリー ソマリアを打つ雨
>>スクールララバイ 予鈴に心を研ぎ澄ませば スプリンクラーに君は振り向けなかった モップ握りしめて動けない いじけてはいられない中距離ランナー 夏の図書館はわたしの世界でした 何故あの子はあの日走ったの ここが天国みたいに優しいことすら知らなかった
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modoru ?
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